日伊共同就労支援プロジェクト 第2年度スタート

東京ソテリア、ボローニャAUSL(地域保健連合公社)精神保健局、社会的協同組合エータベータの連携による日伊共同就労支援プロジェクトの第2年度が5月よりスタートしました。

このプロジェクトは、主に就労継続支援A型 東京ソテリアエンプロイメントのメンバーと東京ソテリアスタッフ(支援員)がイタリア、ボローニャで生活しながら、障がい者や社会的弱者の就労の場である社会的協同組合にて、現地の精神保健局の利用者と共に職業訓練と就労を実施するという二つの国の壁を超えた画期的なプロジェクトです。

イタリアは、“精神病院のない国”として知られていますが、それでは、どのように地域精神保健サービスが機能しているのでしょうか? 「当事者」や「精神障害者」を個のアイデンティティとして優先せず、社会の中の「労働者」として主体を確立していく、イタリアの精神保健の歴史と現在を知る一つの鍵となるのが、社会的協同組合での働き方です。

 エータベータ社会的協同組合

ボローニャは、ヨーロッパ最古の大学が現存し、赤い煉瓦の建造物の中から聳え立つ塔を特徴とした中世の時代からの学術・商業都市です。

エータベータ社会的協同組合の前身は、1999年に現在の代表とその家族、彼らの周りのアーティスト達によって立ち上げられたアソシエーションでした。その後、障がい者やその他の社会的弱者の雇用措置を規定する法律381号に基づき、2006年、社会的協同組合として創立されました。現在は、調理、農業、木工・ガラス製品、クリーニングサービス、出版、社会・文化的イベントオーガナイズ等、多岐に渡る事業を展開しています。各事業において、専門技術指導員、もしくは、ボローニャ精神保健局-依存症局の就労支援サービスによる職業訓練期間を経て、雇用された経験豊富な組合員達が技術指導の役目を担っています。

私達の就労プロジェクトの現場であるエータベータ社会的協同組合のスパツィオ・バッティラーメと呼ばれる広大な敷地内の空間構成と機能は、中世ヨーロッパの修道院特有の自給自足と瞑想の世界からインスタレーションを得ているそうです。しかし、決して社会から孤立した場所ではなく、毎日、ここにいると人と物(生産物)、そして文化が絶え間なく流通していることを肌で感じます。      行政、大学、企業とも連携し、一般市場の中で生産価値を生み出し、同時に社会的なメッセージを発信しています。       他者とは異なる個々それぞれが、プロフェショナルとして働くこと、それがエータベータ社会的協同組合のメッセージです。

共に働き、共に食事をすること 

日伊就労プロジェクトは、調理を中心に行われています。毎朝、両国のメンバーは、8:30過ぎにプロ仕様の厨房に入り、着替え等の準備を行いますが、9:00から始まる朝のミーティングの前には、皆でエスプレッソコーヒーを飲むのが日課です。

それから、実際の作業へと移っていきますが、調理の材料の中心となるのが、敷地内の農園で収穫された無農薬の野菜であり、出来上がった料理が盛り付けられるのは、工房で     作られたリサイクルガラスのお皿です。魅力的なのは、生と再生が事業として一つの空間で循環しているところです。

この一年、東京ソテリアからこのプロジェクトへ参加したメンバーは、タリアテッレ、ラザニア、ボローニャ風ミートソース、フォカッチャ・・・等の沢山のレシピを学び、日本へそれらの経験を持ち帰りましたが、調理技術の学びだけではなく、日伊のメンバー間では、大陸、そして、言語や文化の違いを超えて共に働くこと、そこで生まれる共有を大切にしています。食は、一つの儀礼であり、美、そして、文化の根底であるという観点から、昼食の時は、一つのテーブルを皆で囲み、一緒に食事をします。

  

多目的機能をもつスパテツィオ・バッティラーメは、頻繁に行政や民間主催のカンファレンスやイベントが開催されます。自分達が社会に受け入れてもらうのではなく、自分達が市民、つまり社会を迎え入れ、歓待する。このような連帯と食を美として捉える考え方を根源とした時に”働き方“がどのように変わっていくのでしょうか?

この日伊就労プロジェクトには、多様な側面から見る課題と成果があります。今年度の展開を通して、個々のそれぞれの立場の経験と考察、そして、社会の中での共有のの契機となる事を期待します。