1.提案の趣旨
私たちNPO法人東京ソテリアは、東京城東地域を中心に、精神障害のある方をはじめ、地域で生活する人々への精神保健福祉活動、居住支援、生活支援、アウトリーチ等に取り組んできました。
大規模災害が発生した際、障害のある方や精神的不調を抱える方の中には、一般の避難所で長時間過ごすことが難しい方がいます。
人の多さや騒音、照明、プライバシーの不足、環境の急激な変化などによって強い不安や混乱が生じ、避難所に入ることができない、あるいは一度避難してもその場を離れてしまうことがあります。
また、災害以前から地域で福祉サービスや医療、生活支援を受けていた方については、災害によって支援関係が途切れることで、生活上・心理上の困難が急速に大きくなる可能性があります。
そこで私たちは、既存の避難所や福祉避難所を補完する地域の小規模な支援拠点として、障害のある方や精神的な不調を抱える方、その家族等が安心して滞在し、必要な支援につながることのできる「セーフスペース」の設置をご提案します。
2.制度上の位置づけ
厚生労働省は「災害により被災した要援護障害者等への対応について」において、災害時には、避難所で生活する要援護障害者だけでなく、避難所に避難していない要援護障害者についても、その状況・実態の把握に努め、避難対策及び障害福祉サービス等の円滑な提供について柔軟に対応するよう求めています。
また、障害者支援施設等については、空きスペースを活用するとともに、日常のサービス提供に著しい支障が生じない範囲で、定員を超えて要援護障害者等を受け入れることが可能であることが示されています。災害等による定員超過については、介護給付費の減算を行わない特例的な取扱いも示されています。
さらに、居宅介護及び重度訪問介護については、避難所等の避難先を「居宅」とみなしてサービスを提供することが可能とされています。地域生活支援事業についても、市区町村の判断による柔軟なサービス提供が求められています。
生活介護等の日中活動サービス、宿泊型自立訓練及び共同生活援助についても、災害時の定員超過が認められ、開所日・開所時間について柔軟な対応を行うことが示されています。
これらを踏まえ、私たちが提案するセーフスペースは、新たな制度や施設類型を創設しようとするものではありません。
既存の障害福祉サービス、地域の社会資源、行政、医療・福祉機関、地域住民等が連携し、災害時にその機能を柔軟に組み合わせることで、既存の避難支援体制を補完する地域の支援拠点を形成するものです。
3.セーフスペースの役割
セーフスペースでは、主として次の機能を想定します。
- 一般避難所での生活が困難な方の一時的な滞在場所
- 静かに休息できる環境の確保
- 精神的不安や混乱に対する心理社会的支援
- 障害福祉サービスへの接続・継続支援
- 服薬や医療機関へのアクセスに関する相談
- 家族、支援者、行政、医療機関等との連絡調整
- 避難所に避難していない障害者等へのアウトリーチ
- 必要に応じた福祉避難所、医療機関、障害福祉施設等への橋渡し
- 被災によって孤立した方の発見と地域支援への再接続
「避難する場所」だけではなく、「安心して過ごし、必要な人や支援と再びつながる場所」とすることを重視します。
4.対象者
対象者については、障害種別や診断名によって限定するのではなく、災害時に一般の避難環境への適応が難しい方を広く想定します。
精神障害のある方、発達障害のある方、知的障害のある方、高次脳機能障害のある方、神経疾患等により継続的な支援を必要とする方、強い不安やストレス反応を呈している方、その家族等です。
また、障害者手帳や福祉サービス受給者証の有無だけで対象を判断せず、その時点での本人の状態と支援ニーズを重視します。
5.避難所に来られない人への支援
本提案で特に重視したいのは、「避難所にいる人」だけを支援対象としないことです。
厚生労働省通知でも、避難所に避難していない要援護障害者について、その状況・実態を把握することが求められています。
そのため、セーフスペースを拠点として、必要に応じて地域へのアウトリーチを実施します。
在宅で孤立している方、一般避難所に入れず車中や屋外等で過ごしている方、支援機関との連絡が途絶えた方などを把握し、必要な支援へつなげます。
6.障害福祉サービスとの連携
セーフスペースを単独の避難施設として運営するのではなく、既存の障害福祉サービスとの連続性を確保します。
厚生労働省通知では、避難所等を居宅とみなした居宅介護・重度訪問介護の提供や、共同生活援助等における災害時の柔軟な取扱いが示されています。
こうした制度上の柔軟な取扱いを活用しながら、自治体と協議の上、平時から本人を支援している事業所が災害時にも可能な限り支援を継続できる仕組みを構築することが重要と考えます。
7.情報・コミュニケーションへの配慮
災害時には、情報へのアクセスそのものが困難になる方がいます。
厚生労働省通知においても、視覚障害者や聴覚障害者等について、点字、音声、文字等による災害情報の提供や、手話通訳者等の派遣など、情報・意思疎通支援の重要性が示されています。
セーフスペースにおいても、障害特性や本人の状態に応じ、できるだけ分かりやすく、複数の方法による情報提供を行います。
8.東京ソテリアの経験を活かして
東京ソテリアは、地域精神保健活動の中で培ってきた「地域の中で支える」という考え方を、災害時にも活かしたいと考えています。
また、海外における人道支援活動においても、被災地域でのセーフスペースや心理社会的支援(MHPSS)に取り組んできました。
そこで重視してきたのは、大規模な施設を新たにつくることではなく、地域の中に安心できる小さな場所をつくり、人と人、人と支援、人と地域をもう一度つなぎ直していくことです。
この経験を日本国内の災害支援にも還元したいと考えています。
9.行政・関係機関へのご提案
災害発生後に初めて体制を検討するのではなく、平時から自治体、社会福祉協議会、障害福祉事業所、医療機関、相談支援事業所、地域住民、NPO等の間で、セーフスペースの設置・運営について協議しておくことをご提案します。
具体的には、候補施設の選定、開設基準、対象者、連絡体制、スタッフ配置、障害福祉サービスとの接続、物資、情報共有、個人情報の取扱い、福祉避難所等への移行方法などを、地域の実情に応じて事前に整理します。
セーフスペースは、福祉避難所と競合するものではありません。
むしろ、一般避難所、自宅、福祉避難所、障害福祉施設、医療機関等の「間」をつなぎ、それぞれの人に適した場所や支援へつなげていく中間的・補完的な地域資源として位置づけることができます。
10.おわりに
災害時、支援を最も必要とする人ほど、自ら「助けてください」と言うことが難しい場合があります。
そして、避難所に来ていないからといって、その人が安全であるとは限りません。
だからこそ私たちは、地域の中に小さくても安心できる場所をつくり、そこから必要な人を見つけ、支援につなぎ、人とのつながりを途切れさせない仕組みが必要だと考えています。
厚生労働省が示している災害時の柔軟な障害福祉サービスの運用を活かしながら、地域の既存資源をつなぎ合わせることで、特別な大規模施設を新設しなくても、実効性のある支援体制をつくることは可能です。
私たち東京ソテリアは、これまでの地域精神保健活動及び人道支援の経験を活かし、自治体及び地域の関係機関の皆さまとともに、災害時に誰も取り残されない地域支援体制づくりに協力させていただきたいと考えています。
NPO法人 東京ソテリア
参考資料
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
「災害により被災した要援護障害者等への対応について」
